学名:Eriosyce paucicostata
=Pyrrhocactus neohankeanus var. neohankeanus
=Eriosyce taltalensis ssp. paucicostata
=Neoporteria paucicostata
=Neochilenia taltalensis
=Neochilenia taltalensis
=Eriosyce taltalensis s. str.
和名:エリオシケ・パウキコスタータ ブラックフォーム、黒冠玉(≒ヒルホカクタス・ネオハンケアヌス、国光殿、黒光殿)
産地:チリ (Near TALTAL, Antofagasta, Chile)
株状態:海外実生株
サイズ:球径約5cm、高さ(鉢上)2cm弱
管理期間:約1年半
鉢:国産実験用磁器るつぼ(鉢底穴増設)
説明:
ベランダ整理のため、Eriosyce属(エリオシケ属)を出品します。海外から入手した実生株で、収集している方は、まとめてどうぞ。
本株は、Neoporteria paucicostata (Black form, Near TALTAL)として入手しました。なお、非常にややこしいのですが、E. paucicostata f. viridisの中小株が黒化していることが良くあり、そちらとは綾数や棘の性状等で明確に異なります。f.
viridisの黒化は一時的なもので、成長と共に鮮やかな緑色になっていき、再び黒化することはありません。
本株のタイプ(≒Pyrrhocactus neohankeanus)については姿は良いのですが、分類学的に相当ややこしく、正体を突き止めるのに苦労します。このTALTAL周辺産の黒色〜暗紫色〜暗緑色のpaucicostataとされる系統は、taltalensisとの間で帰属が揺らいできた分類学的な歴史があります。
本種は、1981年にF. RitterがPyrrhocactus
neohankeanusとして新種記載しています。同氏はTALTAL〜PAPOSO周辺を詳細に自身で調査を繰り返していたようで、最終的には同地域にはPyrrhocactus名義でpaucicostatus、neohankeanus、tenuis、taltalensisの4種が混在するとしました。特にneohankeanusについては、地域変異を処理するために、その下に4変種+1品種を置いています(var.
neohankeanus, densispinus, flaviflorus, elongatus. f. woutersianus)。なお、本株は基準変種となるvar. neohankeanusに産地や形態が一致します。
その後の研究者は統合的で、その殆どはpaucicostataとtaltalensisの2種に絞り、どちらかに帰属させる解釈をしているのですが、それぞれの帰属範囲が学説によって異なります。この関係で、ただでさえ分類が難しかったEU圏のneohankeanus株の多くは、paucicostataまたはtaltalensisと更に混ぜこぜになったのではないかと感じています。特にTALTAL周辺のvar.
neohankeanusの解釈が研究者によってバラつきます。いずれにせよ、上記2種の接点または移行帯にあたる地域となり、分類学的に未解決で、見た目にも結構異なる事もあり、少なくとも園芸上は一番細かく分けていたF. Ritter説でペンディングという扱いが無難だと思います。
本株は、PAPOSO産の真正paucicostataとは見た目が異なり、全体に暗色で、綾は12〜16と多く、棘はやや細めですが長く、また側棘も多く、キメ細かい雰囲気を持ちます。漏斗状の花がよりカラフルで、アイボリー〜ピンクのグラデーションを帯び、株によっては全体がフクシアカラーに染まり、時に全く異なる明るいレモンイエローやアイボリーの株もあります。何気に海外実生の棘ありE.
occultaにも、このneohankeanusが同定間違いで紛れ込んで購入した経験があるので注意が必要です(occultaも産地がTALTALに近いです)。
なお、国内の和名については、故伊藤芳夫氏が図鑑類でF. RitterのフィールドナンバーFR212(TALTAL周辺)から実生した株を、Neochilenia
taltalensis(国光殿、黒光殿)として掲載し続けました。ところがこれは厳密には二重三重に間違いで、伊藤図鑑でのtaltalensisは、FRナンバー、形態記述、写真共にneohankeanusと一致します。このため伊藤氏は、C.
Backebergの分類の混乱にも巻き込まれ、真のtaltalensisを勘違いしたまま故人になったと考えられます。
本株は、1年半前に海外から入手し、サイズ的には中小型ですが、既に立派な風格を備えた株となります。Eriosyce属の中では比較的メジャーなpaucicostataまたはtaltalensisではありますが、EU圏でも結構な混乱をきたしており、来歴の判明しているは稀な良形株としてオススメの1株となります。
焦らずじっくり育てると、黒色または暗色を保ちながら倍近くの偏平な株に育てる事が可能です。現在、成長期なこともあり、地色はやや暗緑色を帯びていますが、休眠期や直射日光に当て続けると黒紫色になります。ただし、夏場にあまりに強い日光に当てすぎると焼けますので、無理は禁物です。こちらでは遮光無しで維持してきた事もあり、なかなかの硬作りになっていると思います。
なお、エリオシケ属全体の傾向として、自根株の成長は比較的遅いのですが、基本的には強健で変に潅水しすぎなければ育てやすい部類かと思います。むしろ、日照が少なく潅水や施肥が多いと緑色が強い地色となり、真正paucicostata程ではないにせよ、徒長するので、辛めの灌水でじっくり育てるの事をオススメします。
<Eriosyce属について>
南米のEriosyce属(エリオシケ属)は、もともとEriosyce、Pyrrhocactus、Horridocactus、Islaya、Neochilenia、Neoporteria、Thelocephala、Chileorebutia等に割れており、所属する種の移動も激しい状態でしたが、1994年F.
Kattermannにより、これら全てがEriosyce属に統合する説が提唱されています。同じ種が色々な属名で売られているのは、このためです。現在までも、この考え方は概ね支持されており、遺伝子解析の結果もこの概念を支持していますので、当面は分類学的にはEriosyce1属主義が続くでしょう。
また、種レベルの同定も特徴が掴みづらく、札落ちした株の同定は苦労することもしばしば。開花しないと判然としないものが、かなりあります。残念ながら、国内外のナーセリーで売られている株にも、一定数誤同定が混ざっていますので、油断ができません。数年後に花を見て、同定が間違っていたことに気づくこともしばしばあります。
分類学的な混乱も甚だしく、三桁のシノニム(同物異名)があり、どの種がどの種のシノニムなのかを調べるのが一苦労で、網羅的な日本語の解説書は存在しません。このため各種の正体を調べようとすると、それなりに海外学術文献を読み解かないと、その実態が掴めません。ここが本属のとっつきにくさかと思いますし、国内でイマイチ流行らない理由の一つかもしれません。
一方で、非常に多様な姿でありながら、シックでバランスの良い姿、大振りでありながら派手すぎない絶妙なカラーの花などが特筆に値するかと思います。地域や個体によるバリエーションも多いことから、同地域に生育する大人気のCopiapoa属とは、また違った魅力があるかと思いますし、殆どが中小型なこともあり、日本の住宅事情にも優しいかと思います。